姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』
お得情報をお休みして、今回はブックレビューです。
私が愛してやまない姫野カオルコさんの作品を紹介します。
姫野カオルコ 『彼女は頭が悪いから』
2016年の「東大生わいせつ事件」をもとに書かれたフィクションです。
プロローグでも書かれているように「いやらしい犯罪」をもとに書かれてはいますが、卑猥な好奇心をみたす話はいっさいありませんのであしからず。
当時、事件は5人の東大生が1人の女子大生を輪姦したかのように報道されました。
それを見聞きした世間から大バッシングされたのが、逮捕された当の東大生ではなく、被害者の女子大生でした。
「東大生ねらいの勘違い女が東大生の未来を台無しにした。」
と。
姫野さんは、読者に問いかけます。
勘違い。勘違いとはなにか?
私たちの中にもないでしょうか。東大生というブランドに圧倒されてしまう心理。
尊敬、憧れとともに、いくら頑張ってもかなわない人に対する卑屈な心。
同じ人間なのに。違うのは学歴だけかもしれないのに。
勘違いは私だけでなく、主人公の東大生つばさ自身もそうなのでした。
偏差値の低い頭の悪い人間が優秀な自分たちと同等なわけがない。
犯罪もそんな勘違いから起こりました。
恋人だった被害者に飲み会で難しいクイズを出し、できないからと言って裸にし、ラーメンの汁をかけたり、割りばしでつついたり。
被害者への性暴力は性欲を抑えきれなくて、ではなく、自分より頭の悪い人間には何をしてもいい、辱めて何が悪いという思いからでした。
姫野さんは書いています。
彼らがしたかったことは、偏差値の低い大学に通う生き物を、大嗤い(おおわらい)することだった。彼らにあったのは、ただ「東大ではない人間を馬鹿にしたい欲」だけだった。
最後の一行
「巣鴨の飲み会で、なんで、あの子、あんなふうに泣いたのかな」
つばさは、わからなかった。
本作に感銘を受けたエッセイストの小島慶子さんの立案により、2018年12月に東京大学駒場キャンパスにてブックトークが開催されたそうです。
その場にいた東大生のみなさんはつばさがわからなかった答えがわかったのでしょうか。
参加した東大生は何を語ったのでしょう。
姫野カオルコさんは本作を「ミラー小説」だと言っています。
つばさ達東大生だけではなく私たちの中にある学歴差別、持てる者と持てない者との格差意識、優越感と劣等感などなど、それらを映し出す鏡。
だから読んでいて苦しくなるのだと思います。
決して後味がいい作品ではありませんが、考えさせられる非常に良い作品でした。
やっぱり姫野カオルコさん大好きです。